http://allatanys.jp/B001/UGC020005920100329COK00515.html?from=yoltop
■概略(スポーツジャーナリスト吉井妙子)
陸上世界選手権の400m障害で2個の銅メダルを獲得した為末大選手らが音頭を取り、
活動資金に苦しむマイナー競技の選手らに資金援助などをする非営利団体
「アスリート・ソサエティー(仮称)」を設立するとの計画だ。
◇選手が選手を支援
「現役、又は元選手が1人3万円ずつを出し合って設立。企業・団体・個人からの寄付金を、
支援金として当初は若手1〜3選手に一人約200万〜400万円を貸し出す」という。
日経は「“世界で戦える”などの条件に照らして選定し、プレゼンテーションを通じて
企業や一般からの寄付を募る。企業などには従来より少ない負担で選手を応援できる
点を訴え、スポーツ選手支援の端緒にしたい狙いもある」と伝えている。
そして両紙とも「“頑張りますからお金を下さい”だけでなく、まず選手自らがお金を
出し合ってから、協力を求める方が社会に納得してもらえるはず」(読売)など、
選手側の努力をも強調する為末選手のコメントで記事を結んでいる。
バンクーバー五輪後は、金6個を含むメダル14個の韓国の活躍に刺激されたのか、
文部科学省がスポーツ基本法の策定に向け関係者などのヒアリングを始めた。
しかし、2011年度予算に反映されるかは不明。
国の決定を待つより、自分達で行動しよう。そんな決意が為末選手らから見て取れる。
活躍が期待される選手であっても、競技によって貧富の差は驚くほど大きい。
裕福な競技の筆頭はプロ野球。2009年に年棒1億円を超えた選手は71人。
チーム平均年棒は2軍を含めると阪神が5794万円、ソフトバンクは5273万円、
巨人は4676万円。一軍だけに絞れば7000万円近くになるはずだ。
一方のオリンピック選手は、社会人であれば所属する企業の給料にほぼ準じている。
300万円前後が相場。だが、仕事をしながら五輪を目指すには満足な練習が出来ない為、
時間の自由が利くアルバイトに精を出す選手も多い。
もちろん、オリンピック系選手の中でも、スポンサーなどに恵まれ潤沢な活動資金のある
選手もいる。だがそれは、人気のあるごく一部。国の強化費配分も人気選手に集中し、
これから芽を出そうという選手は一向に報われない。
◇汗の量は同じなのに
私が彼らを食事に招待できるのは、居酒屋に毛が生えた程度の小料理店が関の山。
ブランド物で身を固めて現われる野球やサッカー、プロゴルファーなどは、店構えに身を
引いた態度を示し、ジャージ姿のオリンピック系選手は目を輝かしながら食事をほおばる。
彼らのそんな態度の違いを見ながら、しみじみ思う。
国民に期待され、汗をかいている量は同じなのに、競技の違いで
これだけ差が出るものなのかと。
むしろ、汗の量からすればオリンピック選手の方が多いくらいだ。
仕方のない面もある。その競技がプロであるかどうかが大きな要因だし、毎日のように
試合のある選手と、4年に1度だけ国民の注目を浴びる選手では、ギャランティに差が
出るのも当然。しかし、オリンピック系選手だって、毎日練習に励んでいる。
彼らの現状を目の当たりにしている私からすれば、プロ選手たちが毎年買い換えている
高級車を1年我慢し、その資金をオリンピック選手に回してやれないものかと思う。
彼らが食事に使っている店をワンランク落とせば、オリンピック選手の1年間の活動資金
にもなる。あるいは飲み代をちょっと節約すれば、多大なお金が浮くはずだ。
1度だけ、年棒数億円の野球選手に、オリンピック選手の現状を訴えたことがあった。
こんな答えが返ってきた。
「彼らに比べたら僕らは恵まれすぎているとは思うけど、僕が援助したら彼らはどう思う
でしょうか。支援する人とされる人という上下関係が出来てしまう。
スポーツ選手は競技に関係なく、尊敬したりされたり精神的には対等であるはずです。
そこにお金を注入することによって立場の違いを作ってはいけないと思う。
かえって、彼らのプライドを傷つけることになるんじゃないですか」
◇社会的な貢献を広げたいが・・・
プロ野球選手の名誉の為に言うなら、社会貢献活動を秘かにしている選手は多い。
ソフトバンク和田毅選手は、途上国の子ども達にワクチンを贈り続けているし、
西武の中島裕之選手は野球道具をキューバの子ども達に毎年プレゼントしている。
プロの選手たちは、社会のために何か活動をしたいと考えている。
しかし何を、どんな形でやればいいのか分からない。自分の行為を美談ととらえられたく
ないという選手もいる。 選手同士のプライドを考えれば、他の競技の選手を支援するなど
出来るはずもない。
そんな複雑なプロ選手の心理を、為末選手らが構想している「アスリート・ソサエティ」が
受け皿になることによって、名目が立つかも知れない。競技の垣根を超え、選手同士の
相互補助という基盤が出来れば、新たな交流も生まれ日本スポーツ界の活性化にも繋がる。
いずれにしろ、選手の支援に選手が名乗りを上げる発想がいい。
しかし、日本人選手が国際舞台でなかなか結果を出せないという理由を、身をもって
体験している切羽詰った行動であるのは事実。
文部科学省も為末選手らの行動にならい、スポーツ基本法の具体策を早く討論して欲しい。
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言いたい事はわかる。
素晴らしい記事である。
記載事項も事実に基づいているし、
こういう事実を知らない世間に、もっともっとメディアは報道してほしい。
が、しかし、もう一歩先を見ると、
寄付でいいのか?という点である。
チャリティ先進国UK、NPO先進国USA等のような、寄付文化に比べたら、
御存知、日本の寄付感覚は遅れている。
98年NPO法が施行されて、多くのNPOができた。
USAのNPOは事業収入主体だが、日本のNPOは寄付収入を主とする傾向。
多くのNPOが生まれている裏側で、寄付収入を掴めずに、
解散するNPO数がどれだけあるか。
うるるん滞在記で東ちづるが、国際平和村をテーマとした番組が放映された翌日から、
日本からの寄付金が3000万集まったという。
しかし、寄付を継続的な傾向がある海外に比べて、日本は、非常に短期的。
番組を忘れれば、寄付もしなくなってしまうのか。
そもそも寄付とは何か?
リターンの必要のない、善意ある金と言える。
日本では、地域文化の祭りに、周辺住民から多くの金が集まり、
スポーツの世界では、相撲においてタニマチが金を出す。
日本企業においても、経団連1%クラブのデータを見れば、
様々なテーマに企業は寄付金を出しており、
そのテーマの1つにスポーツも入っているが、これがまた少ない。
スポーツはプライオリティが低い。
何故か?もっと優先すべき人権・環境・福祉等のテーマがあるから。
これは、NPOの世界を見るとわかりやすい。
NPOは社会の課題に直結した形で活動しているケースがほとんどで、
人の命に関わっているケースもある。
それにスポーツを比較されると、どうしてもスポーツというテーマは弱い。
それはある意味、当然とも言える。
寄付金を何のテーマに対して出すか?
それは個人の自由であり、最も関心のあるものに出せばいい。
だから、スポーツにも寄付金が集まる事実も、
今後のポテンシャルも認める。
だが、スポーツは、そこに位置していいのかと、若干疑問が残る。
金の卵のアマチュア選手が育つには金が必要。
だから、寄付という金も有り・・・とするのは、否定も肯定もできない。
というのは、
環境問題や福祉問題などと同じ位置付けで、気持ちの入った金を
得る事をベースにしていいのかという疑問である。
企業スポーツの休廃部、スポンサー撤退というスポーツ界のマイナススパイラルの中で、
欧州のような総合型地域スポーツクラブの国の推奨も出てきた。
企業に頼らず、市民からの会員収入で運営を回す形も、
時間は掛かるが、広がりを見せるかもしれない。
という中で、
スポーツ界の資金調達の次の一手は何なのか?
寄付なのか?
個人的には、もっと個人からの協賛金を広めてほしい。
これは何も新しい発想ではないが、うまく整理されていない世界と考えられる。
協賛金とは、通常、企業からのものと認識されている。
だが、プロチームのファンクラブや後援会など、
寄付金のように見えて、特典というスポンサーメリットが返される事を考えれば、
これは立派な個人からの協賛金とも言える。
これをもっと整理・総括して、スポーツに結び付ける事はできないのか?
各チームごとに行われているこの仕組み。
金の卵の個人選手には運営が難しい。
しかし、そういう仕組みがあれば、
寄付金という、環境・福祉などの真に金が必要な世界とぶつからず、
税金を頼らず、企業を頼らず、
自らの力で資金調達できる世界がキチンと確立されるかもしれない。
ここではあえて言わないが、結構な額を集めているアマチュア選手も実在する。
そういう手法があるにも関わらずに、それを実行せずに
金が無い、金が無い・・・というのは、
あえて酷な言い方をするが、選手サイドの甘えと言える。
むしろ、スポーツ界の資金調達面での課題は、
資金調達の手法を、スポーツ選手がほとんど知らない点であると断言する。
何故、今まで誰も教えなかったのか?
誰が教えるべきなのか?
日本のスポーツの歴史の中で、何故、ここに誰も注力しなかったのか不思議である。
毎年、毎年、資金難で選手が消えて行く事実。
夏冬2年に1回は、五輪前に、資金難の苦労話の報道される。
マイナー競技なら尚更だ。
メディアの力を使って、寄付金を募り、それを投資していく考え自体は素晴らしい。
何もこれを否定している訳ではない。
でも、スポーツ界の未来を考えれば、もっともっと、安定的で持続可能な仕組みが必要。
その答えの1つに、もっと身近な関係者を使った、
個人からの協賛金集めがあるはずである。
また、これとは別に、社会問題に対応するNPOを支援する為に実施されている、
CauseRelatedMarketingが存在し、
これもスポーツに応用できる。
海外では盛んだが、日本でも、しかも日本のスポーツにおいても導入が始まっている。
これも、支払者から見れば、寄付金の一種。
ビール1缶飲めば、150円のい内の10円程度が自動的に徴収される。
これがスポーツに割り当てられるのであれば、応援者なら進んで購入するはず。
寄付金を感じさせない、寄付収集の仕組みだから、これも普及が望まれるが、
テーマ性において、NPO課題とバッティングするので注意が必要。
それに、大手企業の商品程に、会計上や業務推進上、色々な壁が出てくるから、
そんなに簡単なものではない。
むしろ、中小企業の鶴の一声の方が、速く確実に実行されやすい。
いずれにしても、スポーツ界の資金調達は、もっと深く議論されるべき。
色々な手法が現れていい。
但し、それが社会でどのような意義を持っているのか、
未来性があるのか、持続可能なのかを見極めないといけないはず。
評論家ではなく、これまでもこれからもプレイヤーなので、
上記を示す回答策の1つを、近々社会に対して提示するつもりである。